フラグを折る
座られた瞬間に鼻を刺された。
電車で、隣に座ったおじさんのお匂いである。
あそこまで臭いと、自分自身にもダメージがあると思う。
なのに、なぜ平気なんだろう。
例えば、ワキガ的なお匂いだと、体質なので仕方がないと思うし、僕が今まで出会ってきたそれらは、まだグッ。となる程度だ。我慢できる。
だけど、明らかに不潔にしている為の激臭だと、それはもはや自分すら傷つける。呪われた武器だ。
呪われた武器の攻撃力はおしなべて高い。
とはいえ、隣に座った瞬間に、席を立たれたら『あ、俺臭かったかな』とか『キモかったのかな』と傷つけてしまうかもしれない。
いや、まあ、確かに激臭かったし、まあ、それだけ臭い人なので、見た目もアレでもあったのではあるが。
なので、耐える。
幸い、急行ではあるが、梅田発で次の駅は十三だ。中津を跨いですぐだ。
極力、息をしないように、おじさんに触れてしまって、服や皮膚が成分を吸わないように体を細くする。
『十三、十三です』
電車のアナウンスが次に着く駅名をアナウンスした。
僕は、なるべく付近の空気を揺らさないように立ち上がり、ドアの前に向かった。
おじさんを挟んで反対側の若い女性もほぼ同時に立ち上がるのが横目に入った。
僕はおじさんから一島離れたドア付近で手すりを持ち、もといた場所に目を向ける。
席が空いたおじさんの両サイドのうち、片方にサラリーマンが座っていた。そして、次の駅を待たずして立った。そして、少し離れた。
やっぱ、そうだよね。
そう思いながら、おじさんのさらに奥に目を向けると、その先には、おじさんを挟んで反対側の、僕と同時に立った女性がいた。
その女性もおじさんを見ていた。
このまま、その女性を見つめていると物語が始まってしまうので、僕は体の向きを変えて、スマホに目を落とした。
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