if…もしも

 あれから20年以上経った今でもまだ、たまに思い出して後悔する。

僕が高校3年の頃、ある日の朝、同じクラスのSとたまたま一緒に登校していた。

特に仲が良かった訳ではないが、悪くもなく。ただ、同じクラスである。程度の関係性である。

駅から学校までの10数分の間に、とりとめのない会話をしていると、僕らの前の方を歩く一年生を見かけた。

いつも黒いキャップを被っていたその子を、僕は名前もクラスも知らないが、一年生であることは知っていた。ちょっとだけ目立つ特徴があった為だ。

無毛症の子だったのである。

僕は、その子が目に入った時に、隣にいるSに小声で「あいつ、なんかハゲてる子やな」だとか、「ってか、なんでハゲてんねん」のように、僕の子供が同じチョケ方をしたら、その瞬間強めの張り手をお見舞いしてしまうような、バカで馬鹿なおふざけをしてしまった。

Sは僕のおふざけに対して、苦笑いをして言った。

「あれさ、俺の弟やねん」

40年以上生きてきて、あれ以上、恥ずかしくて、申し訳なく感じたことは無い。

そして、その後の自己嫌悪も後悔も。

もちろんすぐさまSに謝って、そんなつもりじゃなかったとどんなつもりの言い訳がわからない言い訳もした。

Sは怒ったりもせず、大丈夫、怒ってるわけじゃない、と言ってくれたが、きっと悲しかったはずだ。仮に、Sが本当に何も思ってなかったとしても、僕が僕を許せない。未だに。

あれからは一度も、誰かに対して、見た目でいじったりチョケたりは一回もしていない。それが当然のことなのだが、あの日までの僕はわかっていなかった。

もし、タイムマシンがあって、一度だけ過去に戻って、何かをやり直しが出来るとしたら?

僕は20年ほど前に戻って、買えるだけビットコインを買うだろう。

あの無毛症のくだりのところに戻らないのかって?

戻らない。あの事がなければ、結局どこかで同じようなクソみたいな失敗をやらかすのだ。きっと。僕は。

なので、後悔も反省もしてるし、未だに思い出すと心臓がぎゅっとなるけど、あれはあれで僕のターニングポイントでもある。

今の僕の血肉になっているのである。

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